Backscatter Communication (後方散乱通信)
- Backscatter communication
後方散乱(backscatter)とはもともとレーダ分野の用語であり、レーダを照射した際に、対象物から照射方向に対して、物体の形状や素材などによって決まるレーダ断面積(Radar Cross Section)に応じて反射される電波を表している.レーダでは、あらかじめ決まったパターン(パルスや、周波数変調など)の電波信号を送信し、受信した後方散乱から対象物までの距離や相対速度を特定している.一方、後方散乱通信では、通信方式を共有する端末が後方散乱をデジタル変調することにより情報の伝送を可能としている.
物流や、インフラモニタなどの分野では、物の状態を情報システムで把握して、制御することが業務効率化やサービス高度化に貢献する.10uW級の超低消費電力で動作し、端末をRadio Frequency Integrated Circuit (RFIC)とセンサの組み合わせでアンテナを除けばmm^2級の超小形で実現できる後方散乱通信は、現在はUHF帯のRadio Frequency Identification (RFID)を中心に活用されている.さらにWiFiなどの無線通信を利用して後方散乱するambient backscatterあるいは、他の無線システムに依存するという意味を込めたsymbiotic backscatterも注目されている.Beyond 5Gでも低消費電力・小形のセンサ端末からのアクセス方法として検討されている.このように後方散乱通信は物と情報システムの接続(Internet of Things: IoT)やそのための無線給電を実現する有効な手段であり、今後様々な周波数帯、様々な形態でますます利用が広がることが期待できる.
symbiotic backscatterでは、後方散乱する電波を供給する装置をprimary transmitter, 後方散乱する端末をbackscatter device, 後方散乱信号を受信する装置をprimary receiverと定義しており、これを含めて後方散乱通信の基本構成を一般化すると図のように書ける.RFIDではprimary transmitterとprimary receiverが同一の装置に実装され、質問器(interrogator)と呼ばれることが多い.端末が反射する際、質問器は一般には連続波(Continuous wave: CW)を供給している。
質問器の送信と受信アンテナが共用の場合にはmonostatic、送信と受信アンテナが別の場合にはcolocated bistatic、送信と受信アンテナがambient backscatterのように別目的で構築されている場合はdislocated bistaticと呼ばれることもある.端末に向かう通信あるいは無線給電回線をフォワード回線、端末から反射によって形成される無線回線をリターン回線と呼ぶ.
後方散乱通信は電池なしを含めた低消費電力端末や超小形端末の実現という特長の一方で、給電が安定しないこと、反射を利用することによって元来リターン回線の信号が弱いこと、質問器の送信電力の受信回路への漏れ込みが大きいこと、反射の波形整形ができないことなどからリターン回線の信号対雑音比を高くすることが難しく、通信距離の延伸、通信の高速化や安定化など、さらなる研究開発が求められている分野でもある.
- Full duplex backscatter communication(後方散乱通信の全二重方式)
- Interference Rejection(干渉除去)
Distributed Antenna System (DAS)